tituti MAGAZINE

noriko tanaka

#02 INTERVIEW 田中紀子

tituti magazineの第一回に引き続き、田中紀子さん。今回は制作の裏側を中心にお話しいただきました。
第一回は以下のリンクからご覧いただけます。

紅型道具

今回は紅型の制作工程などのお話を少しお伺いしたいと思います。こちらにある紅型の取り扱いの用紙に、使用素材としてさまざまなものが記載されていますね。

これは染めるものというより、製品に使っている素材も含まれています。染めるものは天然素材のものが多いです。綿、麻、絹、和紙がほとんど。わたしは麻を主に使っています。

紅型の制作工程って話せば長くなるんですけど、染める前に型紙を使って「糊置き」(のりおき)という作業をします。染めないところをのりを使って防染するんです。あ、型紙持ってるからちょっと待ってください。

型紙
「24 年前の年賀状に作った型紙です。」おもむろに取り出した型紙は 24 年前とは思えないほど、きれいな状態。

この型紙の空いてる部分が網目みたいになってますね。ここに、のりが入るようにスーッと。シルクスクリーンご存知ですか? あれは色をのせますが、あんな感じでのりを引くんです。ムーチー(※月桃の葉に巻いて、蒸して作る沖縄のお餅)の柔らかいのみたいな。のりがついているところはカバーされるので染まらないんです。この部分は染まらないので、はみ出すように小さいハケで色分けしながら全部染めます。

紅型は「隈取り(くまどり)」が特徴なんです。立体感を出したり、アクセントをつけたり、奥行きを出したりっていうことを隈取りでしていきます。グラデーションをかけるみたいな感じ。歌舞伎の隈取りと同じ漢字を書くんですけど、強調させたり、立体感をつけたり、表情つけたりという感じで一緒ですよね。

隈取り

例えばピンクで染めたとき。そこに濃い赤色でぼかしながらグラデーションをつけると立体感がでたりアクセントがつきます。まず薄い色で染めて、重ねて中間の濃さでも染めて、隈取りをしていく。そうしたら今度はのりを落とします。色が定着するまで何日か乾かした後に、水につけるんです。

のりを落とすまでの作業には、どのくらいの時間を要するのでしょうか?

ものにもよりますね。一つだけ染めるということはあまりないので、いくつか染めることになります。のり置きに一日、それから地入れと言って、色の定着を良くするためと、にじみ止めのための作業をします。豆汁(ごじる)という、大豆の絞り汁を薄めたものをハケで引きます。乾かすのを含めてそれに約一日。その後に染め始めるんですけど、薄い色で染める「配色」、次に濃度の違う同じ色を重ねて染める「二度刷り」。全体を染めたら今度は隈を入れていくっていう作業になります。

なので少なければ一日、一日、一日とかですけど、量が多ければ同じ作業に数日かかるという感じでしょうか。

地染め(背景を染める)をする場合は、先に染めた部分をのりで伏せて地(背景)を染料で染めます。その後、高温で蒸しをして色を定着させます。蒸しをしないと流れてしまう染料もあるので。

noriko tanaka

ということは、染料ごとの特徴を全て把握しておかないといけないんですね。

そうですね。化学染料は、麻や綿の植物性、絹やウールの動物性など、素材によって使う染料が違うんですよ。これを間違えると染まらない状態になってしまうので。助剤(じょざい)にも種類があって、染料や素材によってどれを組み合わせるかを把握しないといけないです。植物染料も媒染剤によって発色が全然違ってきます。

組み合わせがたくさんあるんですね。

そうですね、なのでいろんな試しをするんですよ。この染料はどのように染まるかとか。色の配合もあるから試し始めるとキリがなくて。その時うまくいっても、次回やろうと思ったらうまくいかない場合もあります。だから試しばっかり増えて・・・。後からよくわからないメモがいっぱい出てきたり。なので、わからなくならないように、染めた部分をメモと一緒に色のピースみたいにして記録していきます。それでも、条件が変わるとまた同じ試しをやらなくちゃいけないことも多々あります。

「あー、前にもこれやったなー。」といった感じですか?

やったけどどっちだったっけみたいな。色材や助剤も新しいのが出たら使うべきか使わざるべきか、新しい悩みもありますね。

試し刷り