tituti MAGAZINE

tomoko nagaike

#05 INTERVIEW 長池朋子

深みと調和の取れた色彩を、一枚の布へと緻密に織り込んでいく長池朋子さん。丁寧な手仕事に裏打ちされた、伝統とモダンをバランスよく感じさせる設計、色彩感覚を、さまざまなお話から垣間見させていただきます。

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まずお聞きしたいのが、作家さんの紹介用に作成した印刷物で、表紙に使用した作品。他とはかなり異質な作品と感じられるのですが、なにか特別な経緯で作成された作品なのでしょうか。

これは、織物の基本の織り方なんですね。それをくずしたのがこれっていう感じ。

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この作品ができた物語ですが、当時使っている道具に錆(さび)が出てしまい、経糸(たていと)に錆の色がついてしまったんですね。なので経糸を織り進めた上で捨てたい。だけど緯糸(よこいと)を全部織ってしまうともったいない。作業する手間ももったいないから、緯糸を省略したらどうだろうって。それで緯糸を大きく織り進めたんです。

織り進めるうちに「あ、なんか面白い。」って感じたんですね。でも、ほとんどが糸なのでこれは製品にならない、ふれるのも怖い、人のふれるものにはならない、という感じでひとまず置いておいたんです。

ある時、カフーリゾート・フチャクコンドホテルのスパの各部屋のディスプレイをそれぞれの作家さんでやってください、っていうご依頼があったんです。その時に、飾るならさわらないのでこの技法使ってみたらどうかなって提案したら、みんなが面白いって感じてくれたんです。それならと、タペストリとして作ってみたんですね。

それはそれとして面白かったのですが、今度はこれを「ショールにしたらいいんじゃないか。」という案が出てきて。私としては、はじめは「いやいやいや、くずれちゃうからショールにするのは怖い。」って。

それでも最終的に、密度や幅を調整して扱いやすい形にしてから、商品として出来上がりました。

繊細な質感やグラデーションががとても素敵ですよね。

でもこれは織物ですっていって公表するのは難しくって、また沖縄の織物ですっていうのも難しい。なので『titutiの織物』ということで存在している織物なんです。

織物の仲間に見せた時には、これがどういうものかわかるので「怖くてさわれない。」となるのですが、titutiに持ってきた時に「面白い。大丈夫、大丈夫。さわれる。」という感じで新しい見方ができたので、titutiだからこそ出来たもの。だから、とっても楽しいんです。

違う分野の方の思考などで新しい捉え方が生まれるのですね。

うん、出てきます。はっきりこれっていう物質的なものじゃなくても、考え方だったり存在の仕方だったりとか。織物だけではないというのかな。本当に私は機織工房しよんとtitutiがあって成り立っているっていうのはあります。さすがに十年以上やっているので、普通だったらちょっと固まった織物の道になっちゃってたかなって。

機織工房しよん/長池朋子を含めた4人の作家が所属する、沖縄の伝統技法を用いてデザインから手織り販売までを行う工房。現在は八重瀬に工房を構える。

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とは言っても、過去にCMの撮影など特殊なお仕事もいろいろされていますね。

人づてでCMの制作会社から、「織りでロゴを織ってくれる人いないか。」って相談が来たんです。それで、花織でロゴを織ってみようかって。織物ってドットなので方眼紙で細かく計算すれば、どうにかそのロゴができるかと。

だけど、ロゴの形が崩れてるというのは会社として許されない。でも織物は伸び縮みもあるし、その補償は出来いないって言ったんです。なので、編集で最後はCGできちっとしたロゴに変えるというお話になっていたんです。

それで必死に方眼紙と戦っていたら、最終的にとてもちゃんとしたロゴが織れて「すごくない、これ」って。結局そのCGでの加工は無くなったんですよ。崩れがなくロゴとしてちゃんと成立するので、そのまま使われました。

撮影に来てくれた光景も面白かったです。

どちらで撮影されたんですか。

当時、自宅を工房にしてたので、自宅です。自宅に撮影用にカメラを動かすクレーンを入れたんです。それで撮影したんですけれど、CMってすごい短いじゃない。だから演出の都合で、手の次にすぐ足を動かさなくちゃいけない。だけど私の速さじゃ間に合わないってなった時に、スタッフさんが「じゃあ私が足やります。」って。私の手は私の手だけど、足を踏むのはスタッフさん。みんなの手足を借りて撮影をしたのでとても楽しかったです。

今でも映像が見れたらいいですね。

そうですね。映像を欲しいとかも言わなかったし、当時はパソコンもそんなに身近じゃなかったから。

糸